介護業界の印象として、多くが過酷な労働現場や低賃金、休みの取りにくさなどマイナスイメージを抱く方も少なくありません。
これらのマイナスイメージにより、介護業界の人手不足は解消されにくい状況にあるといえますが、その問題を解決する方法として「介護DX」がクローズアップされることが増えました。
介護現場の業務にデジタル技術を採用することで、たとえばITによる介護の省力化や、現場を円滑に回す仕組みづくりが可能となります。
そこで、介護現場のデジタル化を目指す「介護DX」について解説していきます。
様々な業界で注目されている「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」
「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」とは、デジタル技術により提供するサービスや業務・組織の変革、競合優位性を確立することです。
最新技術を取り入れ、業務効率化・コスト削減・新ビジネス創出などを可能とします。
たとえば業務を効率化させるために「IT」を導入する「IT化」は効率化という目的を達成させるためです。
「DX」はデジタル技術を「手段」として用いり、ビジネスそのものを変革することを目的とします。
DXの中にITを取り入れることで、離れた場所同士が情報を蓄積したり共有したり、分析した結果に基づき次の改善に活かすこともできます。
より良い介護サービスを提供できるように、業務や組織を見直しするため最新技術を取り入れようとすることが「介護DX」です。
「介護DX」を進めることによる3つのメリット
「介護DX」には「ICT(情報通信技術)」活用も含まれますが、それにより情報処理以外にインターネットなど通信技術を活用するコミュニケーションなどが可能となります。
介護ソフトの導入や見守りシステムを採用することもICT活用の方法ですが、介護DXではICT活用により業務効率化し、提供する介護サービスの質を向上させ競合優位性を確立させていきます。
介護現場が介護DXを取り入れることにより、主に次の3つのメリットがあると考えられます。
- 入居者の見回りなどの業務効率化
- 事務作業の省力化とペーパーレス化
- 人材不足問題の解消
それぞれのメリットについて説明します。
入居者の見回りなどの業務効率化
大規模な介護施設の場合、100人を超える入居者が暮らしていることもありますが、それぞれの行動を常に確認することは限られた介護人材では不可能です。
特に24時間体制の介護施設の場合、認知症の方が夜間に徘徊しないように注意も必要となります。
このような場合、人感センサーを使って情報共有で徘徊を防ぐことや、人に装着するウェアラブル端末などで利用者の排せつ予測などが可能となります。
事務作業の省力化とペーパーレス化
24時間体制の介護施設の場合、一人の入居者に対し複数の介護職員が対応することもあるため、シフト勤務ではその情報の引き継ぎが大切になります。
入居者の記録や申し送りなどは手書きや口頭で行うことが多いですが、ミスを防ぐためにもタブレットなど携帯端末を使った情報共有がおススメです。
記録時間を短縮でき、体温や血圧、服薬管理や摂取食事量なども数値化し、スムーズに引き継ぐことができます。
人材不足問題の解消
IT技術で対応できるケアはAIロボットなどに任せることで、人材不足の問題を解消できます。
介護技術とIT技術の知識や理解のある人材を育てていけば、たとえ少数精鋭でも現場を回すことは可能となるでしょう。
また、ケガや病気などで出勤できなくなった介護職員がいても、最新技術を導入していれば事務作業をリモートワークで対応できます。
介護業界のDX化が進みにくい3つの理由
様々なメリットがある介護業界のDX化ですが、実際には導入が進んでいるとはいえません。
その理由として、主に次の3つが関係していると考えられます。
- 投入資金不足などコストの問題
- 保守的な経営層の考えに合わない
- 最新技術に対応できるスタッフ不足
それぞれ説明していきます。
投入資金不足などコストの問題
IT機器や設備の導入には投入資金が必要ですが、初期投資にかける金額が大きく対応できない介護事業者も少なくありません。
保守的な経営層の考えに合わない
介護業界では、人と人とのつながりや、直接人が接してサービスを提供するものといった思想が強く、デジタル技術を取り入れることに抵抗感を持っている傾向も見られます。
また、本当にデジタル技術で介護サービスの提供が可能なのか、といった不安なども払拭できていません。
最新技術に対応できるスタッフ不足
デジタル機器などを導入したものの、設備や機器を操作できる介護職員がいなければ意味がありません。
新しく導入した機器をうまく使いこなすことができるようになるまである程度の時間を要することとなり、高齢のベテラン職員などは操作になじめず仕事に対するモチベーションを低下させてしまうことも懸念されます。
若い世代の介護職員であればすぐに対応できると考えられますが、介護業界で働く世代は中高年齢層の職員が多く、介護のスキルだけでなくIT機器を使いこなす能力も備わっていなければならないことが問題です。