介護だけでなく、医療やリハビリテーションなどさまざまな分野で「QOL」という言葉が用いられるようになりました。
QOLは「Quality of Life(クオリティ・オブ・ライフ)」の略称であり、生活の質と訳されることが多い言葉です。
そこで、介護分野ではなぜこのQOLが重要とされているのか、その意味や理由をご説明します。
様々な分野で重視されるQOL
QOLとは、「生命の質」や「人生の質」を意味する言葉として使われることもあり、生活・生命・人生においての幸福さや満足さをあらわしています。
より多くではなく、より良くという視点で生活を充実させ、心身が満たされる状態を作るといった考え方です。
従来までの医療分野では重視されたのは治療であり、リハビリテーションや福祉分野ではADL(日常生活動作)の自立を重視する傾向がありました。
しかし今では、治療とADLの自立だけでなく、QOLも考慮される傾向が高まっています。
介護分野で重視されるQOL
介護サービスの利用者が、自分らしく充実した生活を送ることができるかが重要となり、介護を必要とする状態でも生きがいや生きやすさを感じながら暮らすことができる支援が必要とされています。
年齢を重ねていけばだんだんと身体の機能や能力は低下してしまい、これまでであれば自分でできたことができなくなることもあります。
そのような高齢の方のQOLを向上させるためには、本人が何を幸せと感じるのかを知らなければなりません。
たとえば誰かの役に立つことが幸せだと感じる方の場合、高齢になって自由に身体を動かすことができない状態にあることで、人の役に立たない人間だと感じてしまう可能性もあります。
このような場合、基本的な生活動作をスムーズにすることを目的として、道具を活用したり運動能力を向上させたりすることで、本人のできることを増やし幸せを見出せることにつながる可能性も出てくるでしょう。結果としてQOLを向上させることにつながるといえます。
QOLはなぜ低下してしまうのか
QOLが低下してしまうのは、本人が幸せと感じることや大切にしていることがかなわなくなるからです。
年齢を重ねたことや病気などを患ったことでできていたことができなくなってしまった方がいたとします。その方が周囲に迷惑をかけることが不幸と考える方だった場合、周りの方が優しさで手を差し伸べてもQOLは向上しません。
できないことで精神的な落ち込むだけでなく、一方的に支援してもらうことは迷惑をかける行為と感じ、かえってストレスに繋がるからです。
QOLは、本人がどのようなことで幸せと感じるのか、何を大切にしているかが軸となります。
仮に努力すれば本人ができることなのに手を貸すことで、本人の能力を発揮する機会を奪うだけでなく、QOLも低下させてしまうこととなるでしょう。
そのため客観的な評価や医学的な見解、コミュニケーションなどを踏まえつつ、どこからどこまでサポートするべきかを考えなければならないといえます。
QOL向上のための判断基準の1つADL
ADLは「Activities of Daily Living」の頭文字を省略した言葉で、日常生活動作または日常生活活動を意味します。
日常生活を送る上で必要となる基本動作といえる、食事・排泄・入浴・更衣・整容・移動などが含まれますが、この中でADLよりも複雑・高次な動作をIADL(「Instrumental Activities of Daily Living」の頭文字を省略した言葉)といいます。
基本的日常生活動作をBADLといい、これは一般的にADLと呼ばれる動作で、食事・排泄・入浴・更衣・整容・歩行・移乗・階段昇降などが該当します。
手段的日常生活動作はIADLのことで、買い物・電話応対・食事の準備・交通機関の利用・掃除・洗濯・金銭管理・服薬管理などが挙げられます。
ADLが低下すれば活動量も減り、外出を避け家に閉じこもりがちになってしまうため、心身機能もそれに伴い低下することが多くなります。
反対にADLを向上させることにより自立した生活を送ることが可能となり、結果としてQOL向上につながるはずです。
そのため高齢者のADLを維持・向上させることは、QOLを高めるためにも重要なことといえるでしょう。
ADLだけにとらわれないQOL向上を目指すこと
ADLを向上させることができたとしても、生活の質が低ければ満足度も低下してしまいます。
しかし寝たきり状態でADLは向上できなくても、本人の意思が尊重された状態で介護を受けることができていれば、QOLは高くなると考えられます。
加齢や病気などにより心身機能が低くなった場合や寝たきり状態になった場合でも、QOLを向上させることは可能ということです。
そのためには、利用者の状態だけで判断せず、支援や福祉用具などをうまく活用し生きがいや楽しみを見つけてもらう工夫が必要となります。
利用者の価値観によりどうすればQOLを向上させることが可能となるかは異なるため、介護を行う支援者の価値観で決めることはできないと留意しておくべきでしょう。
ADLにおいても、できることとできないことだけに注目せず、その人らしい生活とは何か考えて支援することが必要です。