「トランス」とは「トランスファー」を省略した言葉であり、介護業界では移動や乗り換えを意味する言葉として使われています。
介護サービスの利用者をベッドから車椅子などに乗り移りさせるときの移乗動作などのことですが、安全な乗り移りを可能とするためにも適切なトランス介助の方法を理解しておくことが必要です。
介護現場で重要となる安全なトランス介助
介護現場でトランス介助を必要とするタイミングはいろいろあります。
たとえば、
・車いすとベッド
・車いすと車
・車いすとトイレの便座
・車いすと床
・車いすと移動用リフト
などが挙げられますが、日々の介護現場ではあたりまえのように何度も繰り返されています。
いずれも利用者だけでなく、介護を行う介護者にも危険が及ばない、安全な方法で移乗や移動の動作が行われることが必要なため、適切なトランス介助を心掛けるようにしましょう。
トランス介助は基本動作と組み合わせて実施
日常生活では、寝返り・起き上がり・立ち上がり・座る・歩くといった基本動作が行われますが、この基本動作に対する介助を組み合わせ移乗・移動介助を行います。
移乗・移動などのトランス介助では、
・移動や移乗前に介助される側の体調確認を
・介助される側の身体能力を確認しておき周囲の環境に配慮した介助を
・転落・転倒などのリスクを予測
・介助前や動作ごとに必ず声をかける
・自立支援を意識した適切な介助
・ボディメカニクスの活用
といったことに重点を置いて行うようにしましょう。
中でもボディメカニクスは、トランス介助を行う上で介助される側と行う側の身体の負担を軽減する上で重要といえます。
ボディメカニクスで腰痛予防や身体負担軽減を
介護のボディメカニクスとは、身体の動きのメカニズムを活用する介護技術のことで、うまく活用することで介助される側の苦痛や不安を軽減します。
さらに介助者の腰痛を予防することや身体負担を軽減させることにもつながるため、必ず実践しましょう。
ボディメカニクスでは、次のことを意識した介助を原則としています。
介助者の支持基底面は広く保つ
足裏など床と接する部分で囲まれた足下の面積を支持基底面といいますが、介助者は足幅を前後・左右に広めに開き支持基底面をしっかり確保すると、立位姿勢が安定します。
介助される方と介助者との重心はできるだけ近く
介助される側と介助者の身体の重心をできるだけ近づけることにより、移動の方向性を一方に固定し、少しの力で大きな力を働かすことができます。
足や腰など大きな筋群を使う
介助の際には、腕や手先だけで行おうとせず、足や腰などの大きな筋肉を意識して行いましょう。腹筋・背筋・大腿四頭筋・大殿筋などを同時に使用すると、筋肉一か所にかかる負荷を抑えることができます。
介助される側の身体はできるだけ小さくまるめる
介助される側の腕を胸の前で組んでもらい、膝を曲げ球体に近づけ小さくまるめることで、ベッドなどに接する面は狭くなります。それにより、力が分散することを防ぐことが可能です。
介助者の重心は低く落とす
介助者は膝を曲げ低く腰を落とすことで、姿勢を安定させ腰にかかる負担も抑えることができます。
足先は移動する方向へと向けて、膝の屈伸を使いながら重心移動で動かすようにしましょう。
介助者の身体はねじらないこと
身体をねじってしまうと重心が安定しませんし、介助者の腰痛の原因になってしまいます。足先は動作の方向に向け、身体だけをねじらないようにしてください。
押さずに引くこと
介助される側の身体を左右に移動させるときは、押すのではなく手前に引くようにしましょう。
てこの原理を利用
力の働く作用点と支える支点、そして力を加える力点の関係を利用したてこの原理を使うと、小さな力でも重さのあるものを動かすことができます。介助者の肘や膝などを支点とし、てこの原理で介助することを意識してみましょう。
トランス介助でもっとも注意したいこと
トランス介助では、介助される側が転倒しないようにすることに注意してください。もし転倒してしまうと骨折につながりやすいため、ケガが影響し寝たきり状態になってしまう可能性があるだけでなく、移動や移乗を怖がるようになってしまうかもしれません。
転倒を防ぎうまくトランス介助を行うためには、介助される側に安心して介助者へ身を任せてもらうことが必要です。
そのためにも介助される側の身体状態や障害の程度を把握しておくこと、不安にさせない声掛けなどを欠かさず行うことが必要といえます。
トランス介助は介助者の腰へ負担がかかることから、腰痛にもつながりやすいことがデメリットです。
介助者の負担を軽減させるためにも、正しいトランス介助の知識を身につけることは欠かせませんし、介助される側にもできるかぎり自身の力を使って移乗や移動をしてもらうことも必要になります。
結果として、身体機能の維持・生活意欲の向上にもつながるため、必要な場合には適切な福祉用具を利用するなど、無理のない安全な介助を行っていくようにしてください。