人々が生活するにあたり、毎日のあいさつやコミュニケーションは大切なことですが、介護現場においてはどのようなコミュニケーションで人間関係を築いていくべきなのでしょう。
コミュニケーションが不足していることで介護サービスの利用者を傷つけてしまったり、ケガを引き起こし一生治ることのない障がいなどを負わせてしまったりなど、様々なリスクを防ぐためにも十分なコミュニケーションを心掛けるべきです。
介護施設などで生活をスタートしたばかりの利用者は、住む場所が異なり家族以外の人に介護してもらうことで様々な不安を抱えているものです。
不安を伴っている状態だからこそ、利用者本人の緊張を和らげ安心してもらえるコミュニケーションが必要になると理解しておきましょう。
介護現場で求められるコミュニケーションとは
介護現場でスタッフと利用者との間でコミュニケーションが必要といっても、利用者の状況や状態に応じてコミュニケーションの手段を変化させていくことが必要です。
そこで、次のように状況や状態ごとに合ったコミュニケーションを取れるように考えてみましょう。
認知症の利用者とのコミュニケーション
物や人の名前、出来事の年月や時間、思考力、判断力などが低下してしまう認知症の特徴を考えると、自分はなぜそこにいるのか誰と何のために一緒にいるのか判断できなくなってしまうものです。
それにより不安や緊張を感じることとなるものですが、認知症の進行レベルは人によって異なります。
ただ共通しているのは、認知症の方に対し声を荒げたり否定したりという対応は好ましくないということです。
もし認知症の方が話している内容や行動が実際と違っていたり間違っていたりしても、現状を理解し寄り添うコミュニケーションで安心を与えてあげることが必要といえます。
不安や焦りを訴えてくる利用者とのコミュニケーション
介護施設で生活している利用者の中には、早く自宅に帰りたいと考えていることもあれば、家族はいつ迎えにくるのだろうと不安を感じていることもあります。
その不安や焦りを介護スタッフに訴えてくることもあるでしょうし、目線や表情などで不安をわかってほしいとあらわしてくる方もいるでしょう。
このような場合、一過性の言葉で声掛けをするのではなく、不安や焦りを受け止めることのできる共感的なコミュニケーションで対応することが大切です。
利用者が嫌な気持ちになってしまわないように
利用者の介護をする上で、例えば「汚い」「臭う」「濡れている」といった言葉はいずれも利用者が恥ずかしいと感じてしまいます。
介護を拒否することにつながる可能性もあるので、もしトイレに失敗して濡れていた場合やお風呂に入ることを嫌がる場合などは「さっぱりしますよ」「すっきりして気持ちいいですよ」といったプラスをイメージさせる言葉で声掛けを行いましょう。
認知症の方が介護を拒否する場合などは、利用者が立ち上がったタイミングに「ついでに寄っていきましょうか?」とトイレなどに誘導するとスムーズな場合もあります。
利用者を敬う気持ちを忘れないこと
介護をする立場の方のほうが、される立場となる利用者よりも年齢は低いことがほとんどでしょう。
そのため利用者を敬う気持ちを忘れず、介助の際には「〇〇してもよろしいですか?」と一言たずねるようにします。
また、入浴時の洗身の介助では、手伝ってほしい部分やどこまでサポートを望むか事前に利用者にたずねておくとよいでしょう。
利用者の意思を無視し、突然頭を洗い出すといった方法は好ましくありません。仮に利用者が体調不良で洗髪は避けたいと考えていても、断れなくなってしまうからです。
相手に「確認」をとり「同意」を得た上で行う気配りが大切といえます。
特にトイレで介助する場合は注意が必要ですし、入浴の際にも誰でも触られたくないところや恥ずかしいという気持ちはありますので注意してください。
安心して介護を受けることのできる現場づくりのために
介護現場では、利用者が介護を受けながら日々の生活を送ることになります。
その際、介護者と介護を受ける方の間で上下関係が生じてしまえば、虐待などを発生させやすい状況を作ってしまう可能性があります。
好きで介護を受ける方はいませんし、もちろん当然の権利とは誰も思っていないはずです。
ましてや他人である介護スタッフにいろいろと頼らなければならないことに、申し訳なさや情けなさ、恥ずかしさなどを感じている利用者は少なくないでしょう。
そのような気持ちに寄り添い、あくまでも対等な関係を築くことも大切ですし、人生における先輩である利用者を敬う気持ちを忘れてはいけません。
医療の進歩で今後はさらに平均寿命が伸びる可能性もありますので、介護を必要とする方の年齢もさらに高くなっていくことでしょう。
今は介護をしている側の立場の人でも、いずれは介護を受ける側になることも十分に考えられます。その時に安心して任せることのできる介護現場を作っていくためにも、機械的に食事や排せつ、入浴などの手助けをするのではなく、適切なコミュニケーションを取りながら思いやりを持ったサポートをしていきましょう。