介護の現場において、食事や入浴、排泄、着替えなど、いろいろな場面で欠かすことのできない動作に「移動」があります。
高齢者が移動する際にサポートを行う「移乗」や「移動介助」は身体介護の基本中の基本といえる部分ですが、ベッドからの起き上がる時の移動と車いすに移乗する際に、どのような起こし方をすればよいのかご説明します。
まずはボディメカニクスについて理解を
移乗や移動の介助は、介助を受ける高齢者だけでなく、介助者の身体的な負担を軽減する上で重要な部分です。そこで、無理せず安全に移乗や移動における介助を行えるように、ボディメカニクスについて理解を深めておきましょう。
ボディメカニクスとは、姿勢を安定させることにより、労力を最小限に抑えた状態で要介護者を動かしたり支えたりできる介護技術のことです。「身体(body)」と「機械学(mechanics)」が合わさった学問で、人間の身体を機械として考えた場合の特徴を明らかにします。
高齢者に苦痛や不安を与えずに楽に介助できますし、介助者の身体に負担がかかり腰痛や肩こりなどが発生することを予防する上でも役に立ちます。
ボディメカニクスを活用することで、介助に必要とする労力を抑えることができ、力任せに介助しなくても身体を起こしたり、向きを変更したり、移動させることが可能です。
①高齢者の身体を球体に近づける
高齢者の腕を胸の前で組み、膝を曲げるなどできるかぎり身体を球体に近づけるようにします。ベッドなどに摩擦する面を小さくしすることで、中心に力が集中するため介助しやすくなります。
②高齢者と介助者の重心をできるかぎり近づける
高齢者と介助者の重心を近づけ、一方向に大きな力を働くようにすれば、少しの力で介助することが可能です。
③介助者の支持基底面は広く取る
身体を支えるための基礎となる床と接する部分を結んだ範囲を支持基底面といいます。
この支持基底面をなるべく広く取るように、介助者は足幅を左右・前後広めに開くようにすると、立位姿勢を安定させることができます。
④介助者は重心を低めに
腰を低くすることで姿勢は安定しやすくなり、腰にかかる負荷も抑えることができます。
⑤身体をねじらないように
身体をねじると姿勢が不安定になるので、介助者の腰を傷める原因にもなります。足先を動作の方向に向ければ、身体をねじることなく姿勢を安定させることができるでしょう。
⑥水平に移動する
ベッド上で移動する場合など、身体を持ち上げず横に滑らせるようにします。また、オスよりも引く方が力を分散させずに少しの力で移動させることができます。
⑦大きな筋群を使う
足腰など身体全体の筋肉を意識して力を配分することで、1つの筋肉にかかる負荷を抑えることができます。
ボディメカニクスを活用した起こし方を
効率良く自分の力を伝えるためのテクニックとして用いられるのがボディメカニクスです。このテクニックを知っているかどうかにより、身体にかかる負担は変わってくるでしょう。
無駄な力を使わず、高齢者と介助者双方の身体に係る負担を軽減しながらスムーズに介助するために、どのように動くか説明しながら息を合わせて行う様にしてください。
ベッドからの起こし方
横向きにしてから起こすのがポイントです。動かしにくい部分や痛みがある部分などに注意し、声をかけながら起こすようにしてください。
- 寝返りしやすくなるようにひざを立てます。
- 高齢者の肩とひざに手をあて、起き上がる方向へ横向きにします。
- 体は寝かせた状態で、高齢者の首の下から介助者の上を差し入れ、もう片方の手でひざを持ち両足をベッドから下ろします。
- 高齢者のおしりを軸に頭が弧を描くようなイメージで体を手前に引いて起こします。
- 転倒しないように手を身体に添え、体を安定させて様子をみましょう。
ベッドから車いすに移乗する場合
身体を起こしたり支えるなど、体重がかかる動作を繰り返すことになるので、想像しているよりも負担がかかります。本人ができる範囲のことは自分でしてもらうようにして、できない部分を支援するようにしましょう。
- ベッドの側面に30度くらいの角度で車いすを設置します。この時、足置きを上げておくこととブレーキをかけておくことは忘れないようにしましょう。
- 高齢者の足が床に着くよう、立ちやすい位置に浅く座ってもらいます。
- 介助者は両足を大きく前後に開き、腰を落として両腕を高齢者の腰に回します。高齢者の両腕は介助者の肩に回してもらい、高齢者を引くようにして足に体重を移動させましょう。
- 介助者は車いすに近い方の足を軸に、高齢者の身体を車いすの方向へ向けます。高齢者の脇を支えながら車いすにゆっくり移乗させてください。
要介護者の立ち上がりをサポートする場合
少ない力で立ち上がるには、お辞儀をするように頭を下げ、体の重心をおしりから足に移るようにすることがポイントです。不安定な場合は、手すりや壁などで支えながら立つようにするとよいでしょう。