介護現場では様々な専門用語が飛び交いますが、その中でも介護職初心者が知っておきたい基礎用語として「トランス」「褥瘡」「ADL」という言葉があります。
転職前、または介護職として働きだす頃には理解しておくと役立つはずなので、それぞれの意味を理解しておくようにしましょう。
介護のさまざまな場面で求められる「トランス」
例えば、ベッドから車椅子へ、または車椅子から便座へ、シャワーチェアから浴槽へなど、移乗する動作は様々です。
ただ、足腰が弱い方や半身にマヒがある方の場合、この動作で転倒や転落のリスクを高めることとなるため、乗り移る際の介助が必要です。
移乗動作や移乗介助ことを「トランス」といいますが、介護の現場で、移動や転送といった意味をもつ「トランスファー」を略して使われている言葉です。
トランスを行う基本姿勢
トランスを行う場合には、車椅子にはストッパーをかけることなど、利用者が転倒しないように細心の注意を払うことが求められます。
無理に力を入れすぎてしまうと腰を痛める原因になってしまいますので、まずは利用者になるべく近づいて、足を開いて立ち、重心を低くすることが基本の姿勢です。
利用者を立ち上がらせる時や座らせる時には、膝を使うことで腰にかかる負担を軽減させることができるでしょう。
トランスの役割
寝たきり状態になればだんだんと関節は固くなり、使われなくなった筋肉の力も低下していきます。床ずれなどができやすくなるなど、様々な機能が低下してくるでしょう。
精神的にも意欲が低下することで認知症などになる可能性もあるため、利用者が意欲を持って快適に生活を送ることができるように、心身が自立できる手助けをすることがトランスです。
ただし、必要以上に介助してしまうと、利用者の自主性や自立しようとする意思を阻害することになり、残存機能を失わせることになる可能性も出てきます。
生活の自立に向け、利用者の心身状態の程度を見極めた上で、必要とされる部分の手助けを判断して行うことが大切です。
放置してしまうと重い合併症の原因となる「褥瘡」
「褥瘡(じょくそう)」とは、継続して身体の骨ばった部分が圧迫され、血液が循環されなくなり組織が壊死した状態のことで、一般的には「床ずれ」と呼ばれている症状を指します。
健康な方であれば、寝ている時でも無意識に寝返りを打ちますし、長時間椅子に座り続けていても立ちあがったり座る位置を変え、同じところに継続して圧迫が加わらないような行動を自然に行います。
しかし、寝たきり状態の方の場合、この体位変換を自分で行うことができず、背中やおしりなど、体重が掛かりやすい部分の皮膚が赤くなり、酷くなれば、ただれや傷などの症状としてあらわれます。
仰向けで寝る方であれば肩甲骨や背骨、仙骨周辺に見られ、横向きで寝る方ならひじやひざ、腸骨などに多くみられる症状です。
壊死の程度で褥瘡の重症度が決まる
壊死の深さや広さは、圧迫の強さや時間、皮膚に生じたズレの程度などで異なりますが、強い圧迫が長い時間加われば、筋肉に達するまで深い褥瘡ができてしまいます。
褥瘡にも皮膚壊死が真皮浅層までの比較的浅い褥瘡と、皮下脂肪組織以下まで及んだ深い褥瘡があります。浅い褥瘡であれば短期間で治癒させることもできますが、筋肉まで及んだ深い褥瘡になると、治癒するまで1年以上かかることもあるので注意が必要です。
栄養不足は褥瘡を発生しやすくする
人は、栄養状態が悪くなると筋肉や脂肪組織などをエネルギー源として使い始めます。そのため、栄養が足りていない状態が続くと、筋肉や脂肪組織が減少することとなり、骨が突出しやすくなるので褥瘡ができやすくなるといえます。
また、栄養状態が悪いとむくみも起こりやすくなり、血行不良となって褥瘡ができやすくなるだけでなく、治癒も遅くなってしまいます。
寝たきり状態の方の場合には2時間ごとの体位変換、車椅子の方なら20分ごとのプッシュアップが一般的に推奨されています
- プッシュアップとは
座った姿勢から身体の両側にある手摺や床などに手をつき、曲がった肘を伸ばしながら肩甲骨を引き上げ、上体を床面から押し上げることです。車椅子のアームサポートを使ってプッシュアップを行うと、坐骨部の褥瘡ができることを防ぐことができます。
身体や認知能力を判断する指標の1つ「ADL」
「ADL」とは、「日常生活動作(Activities of Daily Living)」の頭文字を取った言葉です。日常生活を送る上で必要な基本動作のことを指しており、起居動作、移乗、異動、食事、更衣、そして排泄や入浴、整容など動作を指しています。
「IADL」という言葉もありますが、これは「手段的日常生活動作(Instrumental Activity of Daily Living)」の頭文字を取った言葉で、基本的な日像生活における動作の次の段階を指す言葉です。
例えば、掃除、料理、洗濯、買い物の家事の他にも、電話での対応、交通機関の利用、服薬や金銭の管理、スケジュールの調整など、日常生活における動作の中でも複雑なものを指します。
「ADL」は、認知症のスクリーニングや介護認定の場面において、身体の活動能力や障害レベルなどを判断する指標の1つですので、言葉の意味として知っておくとよいでしょう。