2000年4月に介護保険制度が始まり、2005年の改正で介護保険法の目的には「要介護状態となった高齢者などの尊厳保持」を明確化させる趣旨が盛り込まれました。
現在では多くの介護施設で、提供される介護サービスをより充実させようという取り組みが行われています。施設内の設備なども充実し、中には高級マンションと比べても見劣りしないほどの施設も存在するほどです。
しかし法改正前の介護施設は、介護現場での尊厳保持ができているとはいえない状況でした。
現在でもテレビやメディアなどが、介護施設で起きた介護スタッフの利用者に対する虐待などが取り上げられることも少なくありません。
日ごろ介護現場で必死に働いている介護スタッフにとっては、そのようなニュースで現場のイメージが低下してしまうことは迷惑な話ですし、そもそも利用者に対する虐待などあってはならないことです。
そこで、介護施設で尊厳を守るために何が必要なのか考えていきましょう。
介護施設で尊厳を守るために必要な声かけ
介護施設で利用者に対して声かけを行うことは基本的なことと思われがちですが、実際にはその声かけができていないこともあります。
声かけは尊厳を守ることの1つですが、今の介護現場で多くの介護スタッフができていないことも少なくないのです。
介護現場は常に人手不足の状態で、介護スタッフ一人が負担する作業量が多くなりがちですので、忙しいあまり十分な声かけにつながらなくなっているともいえるでしょう。
声かけは、挨拶・体調確認・介護内容の説明・同意という4つができて初めて声かけの得点となると再認識し、十分にできていないなら対応を見直すことも必要です。
認知症の高齢者の尊厳を守るために
30~40年前までの認知症に対する方への対応は、脳の機能が低下し何もわからなくなっているからと非人間的に扱っていた時代もあったようです。
しかし今は認知症の方にも、援助を受けてもらい社会生活を続けてもらえるような体制が整備されるようになりました。もちろん認知症も、適切な支援を受けながら社会生活を継続してもらう権利を持っています。
認知症になったことで、できなくなったことや理解できなくなったことは増えてしまうでしょう。しかしもともとは社会の一員として活躍していた方であり、家庭を支えていたり子供を養育されていたりしてきた方ばかりです。
認知症の症状にだけ注目せず、もともと変わっていない本質を見つめながら、必要な手助けを行うことが必要といえます。そのためにも、介護現場だけでなく、医療や地域、そして家庭などすべての場が連携して支援していくことが必要です。
認知症の方の尊厳を守るためには、相手を子供扱いするのではなく、本人がしてほしいと思えるケアを心がけていくことが大切といえます。
できることは本人にしてもらうことも必要
介護を必要とする方に、親切心から本人に関わるすべてのことを代わりにやってあげたほうがよいと考える方もいます。
しかし何もかも人に代わりに行ってもらい、助けてもらってしまえば、自分でできることまでできなくなってしまいます。
認知症の診断を受けていたとしても、昔得意だったことなどを身体が覚えていることもあります。
それぞれの認知症の方の特徴などを理解しながら、苦手なことなどを手助けし、得意とされることは本人に任せるといったことも必要となるでしょう。それにより本人の自尊心も保たれ、生活の質の向上につながるはずです。
根本原因を考える
認知症の方の中には、徘徊や妄想といった症状(BPSD)が見られる場合もあります。
徘徊することを恐れ、出られないよう鍵をかけたり拘束したり、妄想する方には適当にごまかし忘れさせようとするといった対応はその場しのぎにしかなりません。
本当に危険な行為を行う場合などは緊急措置として止めなければならず、手段を選んでいられないこともあるでしょう。
しかしまずは、認知症の方がいろいろな症状を示すことにどのような理由があるのか考えることが必要です。
根本的な原因が解消されなければ、一時的におさまったとしてもまたすぐに似た症状が出てしまい、また対応しなければならなくなってしまいます。
BPSDと呼ばれる困った症状が発生する原因として主に考えられるのは、
- 心理的な要素(不安・さびしさ・怒りなど)
- 周囲の働きかけ(いきなり手をつかまれた・大声で呼びかけられた・行く手を遮られたなど)
- 体の不調(便秘・空腹・脱水・痛み・かゆみ・発熱など)
- 薬の影響
- 環境(騒々しさ・まぶしさ・なじみのなさ・臭いなど)
- 以前までの習慣(毎朝会社に勤務していた・畑で農作業をしていたなど)
などが関係すると考えられています。
本人と接している介護スタッフやケアマネジャー、医師などは家族とも十分に話し合いを行い、根本的な原因と解決策を探っていくことが必要になります。